ヴァーチャルフォトグラファー(Virtual Photographer)のみなさんも、まだそうでない方もこんにちは。
今回はレンズの特性を理解して、思い通りにレンズ設定を使いこなしてみよう、というお話の第2回です。
前回の記事
目次
はじめに
ピントとボケのお話をする前に、そもそもピントって何なんでしょう?
日本語ではピントのことを焦点と言います。英語ではフォーカスですね。
で、焦点って焦げる点って書くじゃないですか。
虫眼鏡で黒い紙燃やしたことある人は多いと思うんですけど、焦点ってつまりアレのことです。
じゃあ、ボケとは何でしょう?
ざっくり言ってしまうと、焦点が合ってない“ように見える”状態のことです。
何を当然のことを言っているんだと言われるかもしれませんが、コレ、すごく大切なんです。
深いお話を始める前に、まずはサクッとボケのあるフォトの撮り方を説明しましょう。
ボケのあるVPを撮る
背景がしっかりボケたポートレート、いいですよね。
撮り方は簡単で、長めの焦点距離(だいたい85mm以上)で、絞り値を小さめ(f/2.8程度)にして撮影するだけ。
めちゃくちゃざっくり説明してしまうと、
①焦点距離が長ければ長いほど
②絞り値が小さければ小さいほど
③被写体とカメラの距離が短ければ短いほど
④被写体と背景の距離が長いほど
ボケのあるフォトを撮りやすくなります。
これだけわかればいいよ!って方はここまででOKです。
ボケとレンズの関係
残念ながら、ちょっと難しいお話をします。
ここから先はいくつか専門用語を覚えて頂く必要があるので、まずはチャチャッと説明しちゃいましょう。
被写界深度とは何か
被写界深度とは、焦点が合っている“ように見える”範囲のことです。
カメラというのは、被写体にピントを合わせると被写体と異なる距離にあるものはボケて写るのですが、この距離が短いと、ボケが小さくて私たちの目では認識できません(ピントが合っているように見える)。これが被写界深度です。
例えば、このフォトでは、手前の人物にピントが合っているのですが、奥の人物もクッキリしていますよね。コレは、背景をボカしつつ、奥の人物までクッキリ写るように被写界深度を調整しています。
ピントが合っているように見える範囲が大きいことを被写界深度が深い、その逆を被写界深度が浅い、と言ったりします。
この被写界深度を、焦点距離や絞り値などで調整できるようになると、写真の表現力がグッと上がります。
焦点距離
焦点距離というのは、ピントが合っているときのレンズの主点からフィルム(撮像素子)までの距離のことです。カメラの中の撮像素子からレンズの主点(レンズの位置ではない※)までの距離が長くなるほど、遠くのものが大きく見える望遠レンズに、短くなるほど、広い範囲の見える広角レンズになります。長ーいレンズはきっと望遠レンズなんだな、くらいの認識でOKです。
一番右側から70-300mmの望遠ズーム、24-70mmの標準ズーム、60mm、58mmという感じです。
※一枚のレンズであれば、基本的にレンズの位置が主点になるのですが、カメラレンズというのは中にたくさんのレンズが組み合わさっており、実際の主点はレンズとは違う位置にあったりします。例えば、10mmなんていうのは、カメラ内部のフィルム(撮像素子)からたったの1cmなので、コレはもうカメラ本体の中に主点があることになりますし、逆にレンズのずっと先に主点が来ることもあるわけです。
絞り
これは実物を見た方が早いですね。
昔のレンズは、こんな感じで、ピントを調整するリングに加えて、絞りを調整するリングがありました。
この絞りを絞れば絞るほどF値は大きく、開けば開くほど小さくなります(感覚とは逆なので注意)。
で、この絞りというものを絞れば絞るほど(F値が大きくなるほど)、被写界深度が深くなってピントが広い奥行に合う“ように見える”んですね。
感覚的にはわかりづらいかもしれませんが、ピンホール眼鏡ってあるじゃないですか。黒いプラスチックの眼鏡にたくさん小さい穴が開いてるやつ。
アレも、ようは人間の目に対して絞りを絞ることで、ピントが合いやすくしてるわけですよ(詳しくはないんですけど、原理は同じだと思ってます)。
ちなみに、実際のカメラレンズというのは、58mm f/1.4みたいな名称で販売されています。この名称に記載されるF値は開放F値といって、そのレンズが一番絞りを開いたときの値を記載することになっています。で、同じメーカの同じ焦点距離のレンズなら、このF値が小さいほど明るいレンズなどと言って一般的に高価になります(価格が一桁あがることもザラです)。
なので、現実のカメラマンはより大きなボケのために(それだけじゃないんですけど)お金をかけてるんですね(笑)
ボケをコントロールする
必要な用語は説明が済んだので、実際にボケをコントロールする方法を説明していきましょう。
先ほど、説明した通り、写真というのは、
①焦点距離が長ければ長いほど
②絞り値が小さければ小さいほど
③被写体とカメラの距離が短ければ短いほど
④被写体と背景の距離が長いほど
よくボケます。でも、いきなりこんな条件を並べられても分からなくなっちゃうと思うので、簡単な撮影方針を考えましょう。
①まずはボカす
フォトモードを起動してカメラの位置を調整するときは広角から標準の領域(24mmから50mm程度)に焦点距離を設定して動かすことが多いと思います。望遠レンズだと調整しにくいですからね。
この状態でカメラのアングルが決まったら、焦点距離を望遠寄り(85mmから135mm程度)にして、被写体がある程度大きく写る程度までカメラの位置を調整します。
構図が決まったら絞り値を小さくしていく。とりあえずf/2.8程度まで絞りを開けば、たいていの条件で背景がしっかりボケてくると思います。
まずはこの感覚をつかんでみましょう。
上記の焦点距離や絞り値はあくまで例なので、体に染みつくまでいろいろな設定を試してみると良いと思います。
50mmや24mmだって、ボケないわけではありませんからね。
②焦点距離の効果を取り入れていく
前回の記事で説明した、広角や望遠レンズによる効果を取り入れていきましょう。
例えば、「ポートレートであれば135mmで歪みの少ない状態にしてから絞り値をf/5.6くらいで撮ってみよう」と考えて設定してみる。実際に試してみたら、「58mmくらいの画角の方がいいな。その代わり絞り値はf/1.8にしてみよう」みたいな感じです。
③背景や前景を意識する
最初のうちは、レンズの設定と被写体のことで頭がいっぱいになりがちですか、慣れてきたら背景や前景を意識してみましょう。
「遠くの山並みや紅葉、ボカしたら綺麗かもな」とか、「しっかりボカしたいから、背景の遠いこっちのアングルから撮影してみよう」といった具合です。
すべてを一度にやろうとするのではなく、一歩一歩進んでいく方が理解が進むこともあるかもしれません。
ボケの目的
さて、ボケをコントロールできるようになったらVPの表現力はかなり上がってきます。
ここでは、ボケの活用方法を説明したいと思います。
無駄な背景を整理する
恐らくもっとも基本的なボケの使い方になります。
一枚のフォトの中で際立たせたい対象(被写体)の背景を大きくボケさせることで、何を撮っているかを強調することができます。
立体感を演出する
先ほどは背景をボカすことで被写体を強調していましたが、前ボケ(被写体の手前のボケ)を活用するすることで、全体の奥行をより強調することもできます。
ストーリーを演出する
ボケを思い通りにコントロールできるようになると、奥行きのどこからどこまでをクッキリさせつつ、どこからどこまでを何が写っているかわかる程度のボケにするかを調整できるようになります。
メインの被写体をしっかり強調しつつ、メイン以外の被写体も表現にいれることでフォトの中に様々なストーリーを吹き込むことができます。
正確に伝わるかどうかはまた別の話ですけどね。
また、前述の通り、ボケには後ボケ(背景のボケ)だけでなく前ボケもあります。ある程度の被写界深度があれば、被写体に焦点をピッタリ合わせていなくとも被写体はクッキリ写るので、焦点の位置を微調整することで前ボケと後ボケの比率を調整することも可能です。
オートフォーカスが基本の現代ではちょっと忘れがちなテクニックですね。
ピントはあわせる必要あるのか?
ここまで、被写体にはピントを合わせることを基本としてお話してきましたが、何も絶対にピントを合わせる必要はないんですよね。
写真という表現の自由性を失わないためにも、たまにはピントを外したフォトを撮ってみるのも面白いかもしれません。
なんでもボカせばいいわけではない
ボケのコントロールには、そもそもボカさない、という選択肢があります。
ボケをコントロールできるようになると、なんでもボケを入れてしまいがちなのですが、本来ボケというのは理由があって入れるものです。入れる必要がなければ入れなくていいんですよね。
現実のカメラだと、いろいろと理由があって絞りを開かざるを得ないこともあったり、絞ったら絞ったでデメリットがあったりするのですが、VPにはそういった制約がありません。
たいていのゲームのフォトモードに被写界深度のON/OFFの設定がありますが、せっかくなので、どれくらいの絞り値にすれば、それぞれの焦点距離でボケがなくなるかを試してみるのも良いと思います。
コラム【ゲーム内のレンズはオールドレンズ?】
VPの撮影中に太陽が写り込んだりすると、写真の中に6角形くらいの光がたくさん写ることがあると思います。コレ、ゴーストと言って、レンズの中で強い光が何度も反射して写り込む現象なんです。
で、角の数は実はレンズの絞り羽根の枚数なんですよ。この絞り羽根の枚数は小さい光源のボケにも影響があります。
太陽からたくさん伸びてる光芒の本数も本来は羽根の枚数に依存していて、羽根が偶数枚ならそのまま、奇数枚なら羽根の数×2本、絞りを絞ったときに出るんですね。現実のカメラでも、夜景とかイルミネーション撮る人達はこのあたりにこだわりを持っていたりします。
また、アニメとかでもよく見るゴーストは6角形が多いんですが、最近のカメラレンズは7枚とか9枚の羽根を使って、限りなく円形に近い形の絞りが多いです。一般的に円形の絞りの方がボケも滑らかできれいになるということで、こういった6角形のゴーストは、実はイマドキの写真ではほとんど見かけないんですよね。もっと言うと、高価なレンズになるほどゴーストが発生しないような工夫がされていたりして。
とはいえ、やはり昔からのアニメなんかの影響なんでしょう。やっぱりゴーストは6角形くらいがそれっぽいですね(笑)
さてさて、こっちの横切るような強い光はなんでしょうね。
原因として考えられるものが二つあって、ひとつはスミアという現象。これはイメージセンサが使われているカメラで、極端に明るい被写体を撮影したときに垂直、あるいは水平に線が入ってしまう現象のことです。
こんな感じ。
もう一つは、アナモルフィックレンズという映画の撮影なんかによく使われるレンズを使用している可能性。おそらくこちらでしょうね。
このレンズは、私も詳しくはないので細かい説明は割愛しますが、楕円形のボケと強い光源に対して水平方向に青白いラインが現れる特徴があります。このレンズの特性を普通のレンズでも得るためのフィルターもあったりして、なかなかシネマティックでかっこいいな、と思いつつも、一体どんなレンズ使ってるんだよ?と思ったりするんです。
こんな感じで、VPというのは、ヴァーチャルゆえにそのカメラの存在を忘れがちなのですが、撮影されたフォトからその機材に思いを馳せたりもできる、というちょっとマニアックなお話でした。