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おはなし カメラと写真

カメラとの出会い【Nikon FM編】

小さい頃からカメラマンの叔父(父方)と暮らしていたため、カメラは身近にあったが、子供が触ってはいけないモノという認識だった。
頼めば触らせてもらえたのだろうけど、プロ用機材というのはそれなりの物理的重量と、近づき難い雰囲気的重量があるものだ。
はっきり言ってガキには重いしデカい。
叔父はニコンユーザーだったけれど、NikonとかCanonのデジタル一眼レフカメラは(フィルム一眼レフと比べると)もっさりした形状で、正直見た目に魅力を感じなかったというのもある。
見た目って重要。

私が初めてカメラを身近なものとして意識したのは17歳の時だった。
テレビの再放送でやっていた『輝ける瞬間』という戦場カメラマンの映画を観て、カメラカッコいい!欲しい!と思った。
戦場には行きたくないけどね。
翌日には、駅の近くのカフェで「ここで働かせてください」と頭を下げていた。
とにかく、金が必要だと思ったのだ。

当時浪人中だった私は、両親が離婚したバタバタの中、母親の実家で祖母と暮らしていた。
勉強しろなどと言わない祖母にねだれば、カメラくらい買ってもらえそうな気がしたが、
自分の力で手に入れなければいけないと思った。

黙って始めたバイトの初給料3万5千円を握りしめ、写真を趣味にしている叔父(母方)にお願いして一緒に新宿に向かった。
お目当ては映画に出てくる主人公の持っていたカメラ。
ショーケースに並ぶカメラの中に、全く同じカメラを見つけた。

ライカM3、中古美品で24万7千円。
ん?こんなに高いの?中古でしょ?半世紀前のカメラでしょ?はぁ?
状態が良くないものでも10万前後である。というかレンズは別途10万円?え、こっちは30万?

ショーウィンドウ越しのトランペットを見つめる少年よろしく、吐息でガラスを曇らせていた私に、
伯父が「その予算なら、このあたりがいいんじゃない?」と一台のカメラを差し出した。
これが3年後に壊れるまで使い倒したNikon FMとの出会いである。
50mm、F1.4の単焦点レンズと合わせて(伯父に少しだけカンパしてもらって)なんとか一式そろえることができた。

このとき購入したセット。今ではフィルムの巻き上げ機構が壊れて動かないが、手放せないでいる。

正直に言えば、レジに向かうこの時の私はワクワク7割、がっかり3割だった。
想像していた帰り道の私は、あのライカのM3を首からさげて歩いていたはずなのだから。
でも、文句は言えないよねぇ。カンパしてもらったしさ。

帰りの車内、我慢できずに袋から取り出したカメラの質感に胸中のモヤモヤは吹き飛んだ。
ファインダー越しの夜景にピントを合わせる。
フィルムの入っていないカメラで切ったシャッターの音が嬉しくて、何度も何度もシャッターを切る。
ジー、カシャン。ジー、カシャン。

今でもファインダー越しの首都高の夜景と、シャッター音、手に伝わる振動は忘れられない。
こういうのが大事なのだ。

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