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本番当日
朝5時前に起床。普通に寝不足である。炭水化物をとるため、山盛りのパスタとパンを無理やり食べた。
バイクやヘルメットは前日の夜に車へ運び込んでおいたので、サイクルウェアを着込み、そのまま出発する。
集合場所へ車で向かっていると、すでに参加者たちが周辺で走り込みを始めていた。早めに着くつもりだったが、結局それなりにぎりぎりである。ウォーミングアップはなしだ。
まあ、どうせこうなるだろうと思い、練習でもウォーミングアップをしていなかった。想定どおりと言えば想定どおりである。
自分だけ場違いな気がする
私はこれまで、スポーツの大会というものにほとんど参加したことがない。最後に出たものといえば、小学生の頃の水泳の区民大会くらいだ。
周囲を見回せば、使い込まれたロードバイクに本格的なサイクルウェア。チームで参加している人や、いかにも慣れている雰囲気の人ばかりで、どうにも居場所がない。
バイクにはサドルバッグすらつけていない人も多い。なんだか自分だけ、記念参加をしに来たような気分になってくる。
参加手続きを済ませ、ゴール地点まで届けてもらう手荷物を預けた。このときはあまり考えていなかったが、サドルバッグに入れていた重たいチェーンロックは、サドルバッグごと預けておくべきだった。
まあ、当時はサドルバッグの外し方すら知らなかったのだけど。
集合場所からスタート地点までは、ボランティアのガイドさんについて団体で移動する。この時点で置いていかれたらどうしようと心配していたが、さすがに大丈夫だった。
私は30代一般参加の枠なので、係員の誘導に従い、集団の中を前へ進んでいく。もうすぐ自分たちのグループのスタートだ。
それにしても、これほど多くのロードバイクが並んでいるところを初めて見た。その中に自分がいることが不思議で、一体どうしてこうなったのだろうと思う。
自分はいつもこうだ。自分で決めたことなのに、どうして自分が今ここでこうしているのかと、ふと我に返ってしまう。
追い抜かれ続けるスタート

スタートのカウントダウンが始まり、サイクルコンピューターの計測を開始する。
自転車屋の店長さんから言われた言葉を思い出した。
「レースになると周りのペースに乗せられて、タイムが上がることが多いんです。でも、無理をすると脚がもたないので気をつけてくださいね」
どれだけ追い抜かれても、自分の脚にかかる負荷だけを意識しよう。そう決めて走り出す。
とはいえ、ずいぶん追い抜かれるな。
最初の直線で、30代の集団ではほぼ最後尾になった。登りが始まった頃には、後ろからスタートした40代と思われる人たちに、凄まじい勢いで追い抜かれ始める。
サイコンを見る限り、私は時速10kmほどで登っている。それを考えると、追い抜いていく人たちは時速20km以上出ていることになる。
どうなってんだよ。おかしいだろ。自分の横をぶち抜いていくふくらはぎを見て、まぁさもありなんと諦めて自分の走りに集中する。
4kmほど続く上り坂では、少しずつ自転車を降りて立ち止まる参加者も出てきた。開始15分ほどでボトルを落とすトラブルはあったものの、すぐに拾うことができ、不動峠は25分ほどで通過。
恐ろしいことに、トップの選手はこの頃すでにゴールしていたらしい。
下りは休憩ではない
不動峠を越えてもしばらく坂を登り続け、やがて筑波山スカイラインに入る。ここからは、断続的に下り坂が続く。
ここで再び、店長さんの言葉を思い出した。
「下りは休憩じゃないですからね。踏んでください」
ギアをアウターに入れ、一気にペダルを踏む。練習では試していない、ぶっつけ本番の作戦である。
下りで加速し、その勢いを利用して直後の登りをできるだけ進んでしまう。
下り坂で脚を休める参加者は意外と多く、ここで一気に何人もの参加者を追い抜くことができた。
大会中は対向車線も使えるため、普段よりも広く道を使える。最高速度は54.7km/h。周囲に人が多く、全力で踏める状況ではなかったものの、人を追い抜くというのは意外と気持ちがいい。
開始から40分ほどたったところで、補給するのを忘れていたことに気づき、ゼリー飲料を飲んだ。
実際には、この程度の距離のレースなら、走る前に飲んでおいた方がよいらしい。ただ、私はゼリーを飲むと、なんとなく頑張れる気がする。
たぶん気分の問題である。
残り1kmで50分
風返し峠へ向かう下りで一気に加速し、そのまま最後の登りへと入る。
ここはかなり景色がいいスポットなのだが、今はそれどころではない。右膝に感じ始めた違和感を、なんとか無視しながら登り続ける。
残り1km地点で、経過時間は50分。コレは1時間を切れる。
そう思ったら急に気合が入り、今大会で初めてダンシングをしてみた、のだが脚がつりそうになったので、すぐやめた。明らかに右膝が痛い。
ゴール地点のつつじヶ丘駐車場前は、まっすぐな上り坂になっている。ただし、直前で道がカーブしているため、最後までゴールが見えない。
でも、そこにゴールがあることを私は知っている。
ギアを上げ、最後の力でスパートをかける。スパートといっても、時速15kmほどしか出ていないのだけど。
ゴールを通過し、ふらふらしながらサイコンの記録を止め、自転車から降りた。
棒のようになった脚で階段を上り、アイスクリームを食べながら、自転車と参加者で埋め尽くされた駐車場を見渡す。

たぶん、1時間を切ったよな。そう思うと、ふつふつと嬉しさがこみ上げてきた。
帰り道
参加するまでよく分かっていなかったのだが、実は帰りも自走しなければならない。
当然といえば当然なのだけど。

ボランティアのガイドさんに従い、数十人ずつの集団に分かれて、今度は登ってきたコースを下る。
残念ながら、当然行きの下り坂は帰りには上り坂になるので一部では再びペダルを踏まなければならないのだが、「もう帰るだけ」という安心感があるからか、意外と苦にはならなかった。
段差があれば、前を走る人が手でサインを出してくれる。それを見て、私も後ろを走る人のためにサインを出す。
なんだか、これがすごく楽しい。
帰りは40分弱で集合場所に到着した。
完走証を受け取り、タイムを確認する。
55分21秒201。
嬉しくなってスマートフォンで写真を撮ったものの、A4サイズの完走証を入れるものがない。
帰りは仕方なく、完走証を手に持ったまま帰ることになった。
次からは、カバンを持ってこよう。
ツール・ド・つくば2026を完走して
この大会を完走することは、私にとって大切な約束を守ることでもあった。詳しいことは、いつかきちんと書きたいと思っている。
約束であり、目標でもあったツール・ド・つくばを完走したとき、自分の心境にどのような変化が起こるのか、自分自身でも分からなかった。
今はとにかく、もっと遠くへ行ってみたいと思っている。
自分の脚で、どこまで行けるのか試してみたい。もっと見たことのないものを見てみたい。
そんなことを考えていたところ、父から一本の連絡があった。
6月末に佐賀へ行くから、私も来ないかという誘いだった。佐賀は、このバイクにも深い関わりのある場所である。
そうか。このバイクを、福岡に持っていけばいいんだな。
次の目標が決まった。
