これは、『Horizon Forbidden West(ホライゾンフォビドゥンウェスト)』のラスベガスの物語。
初めてゲームの感想を記事にしたのだけど、メインストーリーそっちのけで素敵だった物語についての文章が本編を圧倒しそうだったので、別記事にしてみた。
本編のお話はこちら。
目次
前作について
前作『Horizon Zero Dawn(ホライゾンゼロドーン)』の舞台はユタ州からコロラド州あたりだった。
街並みはほぼ朽ち果てているため分かりづらいけど、ゲーム内で発見できる1000年前のテキストや音声データや、実在の像などから、分かる人であればなんとなく場所はわかる感じ。
で、今作のタイトルが『禁じられた西部』とされている時点で、おいおいラスベガスじゃん!と思っていはいたのだけど、そのベガスに関する物語がメインストーリーの目的忘れるレベルの完成度でおったまげ。
前作について
物語はアーロイがテラフォーミングシステムの副次機能の一つ、「ポセイドン」を探していると、砂漠のど真ん中で水があふれる建物を発見するところから始まる。
なぜか室内で溺れかける男と、その取り巻き二人。初見では「なんだか、めんどくせぇことになりそうだな…」という印象。
話を聞いてみれば、彼らははるばる東のクレイムから、遺跡発掘に来たそうだ。
最初はお宝を横取りされることを警戒してか、口を開いてくれなかったものの、アーロイが無害だとわかると、2秒で「知り合い」、5秒で「相棒」呼ばわり。完全に巻き込まれる。
彼らの目的はこの建物の地下空間にある、「幻石」。本人たちは知らないが、1000年前のラスベガスでショーやイルミネーションとして使われていたホログラム投影機のようなものだ。
さっきまで溺れかけていた男、モーランドは、小さいころに彼の祖父に「幻石」を見せられて以来、その虜になってしまった。
西部に初めて遠征した発掘隊のメンバーでもあった彼の祖父は、その幻石で誰も観たこともないようなショーをするのが夢だったが、資金が足りずに夢半ばで亡くなってしまう。
夢追い人で大馬鹿野郎の発明家に育ったモーランドは、クレイムでショーをやっていたが、夢のために危険な西部まで発掘をしに来たのだ。
現実主義で悲観的、しきりに諦めて帰ろうとモーランドを説得するのは守銭奴のアバダンド。
そんな彼だが、駆け出しのころに彼のショーを観て、すっかりファンになってしまったらしい。彼の夢を叶えたい気持ちはあるものの、クレイムでやっていたショーだって十分素晴らしかったこと。死んだらおしまいだと現実を見ている。
彼らから常に一歩下がり、目の前の情景をすべて詩にのせて語るのはテノールな語り部のステマー。
韻を踏むのに夢中で何を言いたいのかよくわからないが、結局モーランドに心酔してしまっているってこと。
自分も水の中にあるであろう、「ポセイドン」を手に入れたいアーロイは、モーランドに手を貸すことにする。
明らかに、他のクエストよりも表情が豊かなアーロイ。たぶんモーランドの不思議な魅力に少しシリアスな本編のこと、忘れている感じ。
モーランドと考案した潜水マスクを作り、水没した謎の施設へと潜っていくアーロイ。
各所に残されるテキストや音声のデータから、ここが1000年前に、ひとりの男が作った施設で、いまだに大量の水をコントロールする機能が生きていることが分かってくる。
4人の男の物語
実はこの物語の歴史は4人の大馬鹿野郎で紡がれているのだ。
1946年
20世紀前半に実在したアメリカの大物ギャング、ベンジャミン・バグジー・シーゲル。ウクライナ出身のユダヤ系移民で、禁酒法時代を生き、さびれた砂漠のど真ん中にカジノの街を作っちまったギャングだ。
この物語の半分はベガスの酔っ払いのおっさんに聞いた(私もえらく酔っぱらってた)話だし、調べたとこで伝説のギャングの武勇伝なんて半分は誇張だろうからどこまでホントかは知らない。
とにかく第二次大戦が終わった当時、フーバーダムが完成して水も電力も十分に供給されるようになったとはいえ、何もない田舎町に豪華なホテルを作っちまったのは、まぎれもない事実だ。
ホテルの名前は恋人のハリウッド女優のニックネームである「フラミンゴ」。彼女と砂漠のど真ん中に立って、「ここにホテルを作ろう」と言ったのだから控えめに言って気がふれている。
仲間から集めた100万ドルで建設を始めたものの、あれよあれよ構想が膨らんで、最終的かかった金額は600万ドル。現在の600万ドルじゃない。80年前の600万ドルだ。もはや意味不明である。
結局オープニングセレモニーは大雨で大失敗。本人はベガスの興隆を見ることもなくマシンガンでハチの巣にされたのだが、彼が死んだことでこのホテルの存在は一躍有名になって、客が押し寄せた。今もストリップのフォーコーナーに「フラミンゴ・ラスベガス」は健在だ。
2030年
ここからは作中の架空人物で、1000年前を生きたスタンリー・チェン。
2030年代に気候変動で再びすたれたらしいラスベガスを復興させようとした彼は、浄水事業の出資交渉中に弁護士裏切られ、財産をほとんど失ってしまう。
しかし、残った88,000ドルをルーレットにかけ、37対1の配当で320万ドルを手に入れたのだ。
これ、ルーレットを実際にやったことない人には分かりづらいかもしれないけど、アメリカンタイプのダブル0のルーレットの張り目は37ヶ所あるわけ。手持ちの金を分散させて、黒か赤、あるいはいろいろな数字にかけてリスクを分散しても良いのだけど、チェンは一つの数字に賭けたってこと。数字のアタリの配当は36倍だから、3,168,000ドルを手に入れたってことだ。
そして、気温の上昇と、水の価格高騰であえぐベガスに浄水技術を売り込んでベガスを復活させてしまった。
機械の軍団が押し寄せ、地球が滅びつつあるなか、彼もまたベガスの設備をひとりシャットダウンしていくのだけど、最後の最後に諦めきれなかった。
『可能性に賭けて』
音声ログ
データ破損:軽度
やはり無理だ。この場所は捨てられない。
すべてをスタンバイ状態にしておく。システムは数十年、いや数百年は持つはずだ。
見込みは薄いが、でも、いつの日か…誰かがこの場所を再び見つけてくれるかもしれない。この光の街に驚嘆し、富と無限の可能性を見出し、新たな夢を見てくれればいい。この街は、私に二度の目のチャンスを与え、乾いた砂に水をもたらしてくれた…奇跡の街なんだ。
彼は、誰かがいつの日かこのベガスを見つけてくれることに希望を託し、システムをスタンバイ状態にしてファー・ゼニスのメンバーとともに宇宙へ旅立っていく。
残念ながら彼は、宇宙のかなたで命を落としてしまうのだけど、1000年後の未来、また別の大馬鹿野郎がこのベガスの地にたどり着いた。
3000年
モーランドの祖父は、40年前に西部に初めて遠征した発掘隊のメンバー。
このベガスの地で光を放つ幻石、1000年前の技術で、様々なグラフィックを投影する装置を見つけた。彼の夢はこの幻石を使ってショーをすること。
3040年
モーランドの祖父は死んでしまったが、その夢を継ぎ、叶えるべくこの地にたどり着いたモーランドは発掘作業を開始、スタンバイ状態になっていた装置を起動させてしまい、あふれる水で溺れかける。
水の底に見つけたもの
水の底にあったのは輝く街。
だが、幻石を集めようにも大型の機械獣が動き回っていて近づけない。
バカでかい機械獣を前に、援護しろと言われて逃げ出そうとするアバダンド。
機械獣も倒し、幻石取り放題だと大はしゃぎのモーランド。
「ポセイドン」を回収し、設備の電力が復活。
外に出てみると、朽ち果てたベガスの街には1000年前の光がよみがえっていた。
モーランドたちは故郷に戻るのをやめて、この地にショーのための街を作ることにする。
アバダンドの思い付きはきっとこの地に1000年前のラスベガスをよみがえらすのだろう。
ちなみに、再び街を訪れるとモーランドが気球を作っている。
普段はハッキリ、ノーと言えるアーロイもモーランドの誘いは断れない。
で、当然の成り行きとして墜落する。
こんな表情、本編で見ない。
この墜落事故を活かして、以後はきちんと飛行できるようになるよ。
ベガスという街
ラスベガスというのは、人間が作った天国だ。あそこに限って神はいない。
私自身、かつてこのラスベガスで有り金をほぼすべてすったことがある。新婚旅行、妻が眠った後の深夜のカジノでだ。
やけくそで飲んだくれながらルーレットにしがみつき、ディーラーに「新婚旅行なのに、これじゃあお終いだ!」と愚痴りながらチップをすべて黒の33に突っ込んだ。なんと大当たりで掛け金は36倍に。
ベガスのディーラーってのは、客が勝つとCongratulations!って言ってくれるんだ。あれはたぶん、ディーラーからのお情けプレゼントだった。ベガスのディーラーは狙ったところにボールを落とせると聞いたことがある。
馬鹿な私はそれを元手にMEGABUCKSのスロットに向かった。もちろん3枚フルベット以外ありえねぇ。
当然のように資金も尽きかけ、意識も遠のいたころ、周りがどうも騒がしい。画面をよく見ると、ジャックポットの支払い、アテンダントを呼び出せとメッセージが表示されている。ベガスのスロットは一度に1200ドル以上勝つとスタッフを呼ばないと金をもらえないのだ。
デカい黒人アテンダントに囲まれる私を寝起きに見た妻は、ついに私がやらかして捕まったと思ったらしい。
今となってはよい思い出である。