ヴァーチャルフォトグラファー(Virtual Photographer)のみなさんも、まだそうでない方もこんにちは。
今回はレンズの特性を理解して、思い通りにレンズ設定を使いこなしてみよう、というお話の第3回です。
前回の記事
目次
はじめに
今回はいよいよライティングのおはなしです。
ライティングなんていうと高尚で小難しい感じがしますが、実はそんなことありません。
身近なとこでいうと、怖い話をするときに顔の下から懐中電灯を当てるやつ。アレですよ。
強い光が下から当たる、ということは普段はあまりないですよね。普段とは違う陰影ができることで不気味な印象になるわけです。
印象をコントロールする。これがまさにライティングです。
ライティングの目的
写真撮影におけるライティングの目的は、被写体にあたる光をコントロールすることで、思った通りの表現をすることです。
ここでは、人工的な照明を使ったライティングだけではなく、あらゆる光を自分のモノにしてVPを仕上げていくことを目的としつつ、様々なライティングの目的を見ていきましょう。
光量不足を補う
最も一般的な照明の使い方かと思います。皆さんお持ちのスマホにも、コンデジにも、フラッシュがついていますよね。
最近はどんなカメラも暗いところに強くなっているので、出番は減っているかと思いますが、誰でも一度は使ったことがあるのではないでしょうか。
しかし、このフラッシュ、実は扱いが難しくて、何も考えずに使うと残念な仕上がりになります。
修学旅行の記念写真みたいになったりね(今はスマホだからならないのかしら…)。
せめてコレくらいに写したいですよね。でも難しい。
スマホなんかについているフラッシュは方向も光量も限られているので、適当に使うと被写体は白トビして輪郭がぼやけ、のっぺりした写りになり、背景はアンダーで何が写ってるかわからない、みたいなことになりがちなんですね。
逆光の被写体に使う
晴れた日の見晴らしの良いスポットで記念撮影をしようと思ったけど、撮ってみたら被写体の顔が真っ暗なんて経験はないでしょうか。
実はこんな時にフラッシュを使うと背景の景色を白トビさせることなく被写体の顔も明るく写すことができたりします。
被写体を際立たせる
さて、いよいよ本題ですね。
上述したとおり、正面から強い光を当てると被写体の陰影がなくなり、輪郭がぼやけてのっぺりとした印象の写真になってしまいます。
言い換えれば、陰影をつけることで立体感が生まれ、輪郭を強調することでメリハリをつけることができるわけです。
というわけで、実際にライティングの基本をまとめていきましょう。
ライティングの基本
まずは、光の当たる角度による効果を見ていきましょう。
今回はライティング設定のしやすいMarvel's Spider-Man: Miles Moralesで説明しようと思います。
まずは下準備
ライティングの効果を高めるために、まずはコントロールできない環境光をリセットしましょう。
照明モードの「自然光」から「環境光」を0に設定します。
※「環境光」を0に設定すると、ライトの位置まで見えなくなってしまうので、説明時は環境光を1にしています。
斜め前方向
斜め前方向からの光は、被写体に自然な陰影をつけ、立体感を表現する効果が有ります。
自然な写り、柔らかい表現をしたい時なんかにはとても効果的です。
太陽光をイメージするといいですね。
今回は、ライトのタイプをスポットライト(ライトの向いている方向のみに光を当てる)
強度(光の強さ)は5まで落とし、色彩強度(上げる程設定した色味が強くなる)は下げて白めの色に。
拡散(光の当たる範囲)は50で上半身に光が当たるように、柔らかさはMaxの50で、距離(光の届く距離)は57に設定してます。
真横
真横からの光は被写体に強い陰影をつけるので、印象的な効果を生むことができます。
強度は20まで上げて、拡散と柔らかさを下げて強い光が差し込んでいるイメージにしてみました。
後ろ
後ろからの光は、いわゆる逆光になるのですが、被写体の輪郭を強調する効果があります。
また、後ろから人物に強い照明を当てることで、髪の毛の輪郭がふわふわと綺麗に光るような表現もできたりするのですが、残念ながら私の持っているライティング機能が実装されているゲームは、いずれも人物の頭がつるつるしてるので実験できませんでした。結構繊細な表現なので、現状のVPで再現できるかはわかりません。
ここでは、強度は強めの80、拡散は50程度にして、柔らかさはMax50にしてみました。
写真としてはよくわからないモノになってしまってますが、暗闇に溶け込んでしまっていた被写体の輪郭が強調されているのがわかると思います。
高さによる違い
被写体に当たる光の光源の高さによっても印象は変わります。
基本的には上方向からの光の方が、自然な印象を与えることが多いでしょう。日常生活でも、太陽光や室内照明は上方向から当たりますよね。
被写体と同じ高さ、あるいは下方向からの光をあてることで、インパクトのある表現も可能です。
実際のライティングでは、複数の光源を使う中で、下方向からの光もよく使うんですけど、特に女性を撮ったりする時なんかは…まぁちょっと長くなっちゃうので置いておきましょう。
ライティングの実践
実際のライティングは、上述の基本をもとに、複数の照明を使うことがほとんどです。これを多灯ライティングと言います。
一つの照明を使ったものを1灯ライティング、2つなら2灯。自然光やレフ版の反射光も含めて3つ以上使うことが割と多いですね。
メインになる照明をキーライト、キーライトによる陰影を打ち消したり、キーライトでは照らせない部分に光を当てるための照明をフィルライト、被写体の後ろから輪郭を強調するために当てる照明をバックライトと呼んだりします。
1灯ライティング
これは先ほど説明しましたね。
複数の光を使う使うことが多いとは言え、1灯ライティングがしょぼいというわけではありません。
例えば、人物にグッとよって、強い1灯ライティングを当てることで、ダイナミックなポートレートを撮ることができます。
順光のみでは輪郭がぼやけてしまうとはいえ、そのぼやけた輪郭をうつし込む必要はないですし、絞りでぼかしてしまうことも可能です。
また、自然光や環境光による逆光に対して反対側から柔らかい光を当てることで、被写体がアンダー(暗くなってしまうこと)を防ぐことができます。
2灯ライティング
2灯ライティングの一番のメリットはの不自然な陰影を消せることかと思います。
1灯ではどうしても陰影ができてしまいます。
2灯目を1灯目とは反対方向から当てることで、陰影を消すことができました。
左が1灯、右が2灯です。
3灯ライティング
実際2灯でも十分な場合も多いのですが、3灯目を加えることでアクセントを入れたり、より効果的な作品に仕上げることができます。
今回は後ろから強めのライティングを加えました。
左が2灯、右が3灯です。
忘れてましたが、ライティングには雪や雨を写し込む効果もあります。夜景の中で降りしきる雪が写り込む幻想的な写真なんかはフラッシュを使っています。
ゲームでVPをやっていると、特に忘れがちですが、ライティングというはなにも被写体に当てなければならないというルールはありません。
今回は背景のレンガに3灯目を当ててみました。
どうでしょう。黒バックの背景も悪くはありませんが、背景にライティングを加えることで遠近感や立体感を加えることができるので、ライティングの一つの考え方として覚えておいて損はないと思います。
自然光を操る
プレイしているゲームのフォトモードにライティング機能が無いからといって諦める必要は全くありません。
世界の色というは光なのですから、どこかに必要な光は必ずあります。
光はどこかにある
自分の求めている光は、どこから来るのか。
ふとした瞬間によいと思った景色には、ライティングが関与してることが多いです。
それは人工的な照明かもしれないし、
偶然顔に差し込んだ夕陽かもしれません。
満月も立派な照明です。
焚火の炎はもちろん、
自分で光を生み出す手段を考えたっていいじゃないですか。
ゲームの中とは言わず、日常生活の中でも常に光を意識する習慣をつけてみると、ライティングはメキメキ上達します。
ライティングというのは、偶然を必然に変えるための知識です。身につけていくことで、今までたまたま撮れてたいいVPを意図して撮ることができるようになります。
逆光は悪ではない
冒頭で逆光をライティングで解決する方法をお話しましたが、別に逆光が悪なわけではありません。
むしろ順光ではなんでもなかったVPが、逆光になることで印象的な一枚になることなんてよくあることです。
写真というのは平面的なもので、そこには光をもとにしたカタチと色で構成されるわけですが、カタチに意識を向けると思わぬシルエットを見出すことができるかもしれません。
コラム【実際のライティング】
さて、ここまでゲーム内のライティングについてお話してきたわけですが、現実のライティングってどんなことをしてるんだろう、というお話をしてみましょうか。
現実のプロのカメラマンにとって、ライティングというのは使うと使わざるとに関わらず必須の技術です。
ブライダルの撮影やスタジオ撮影、物撮りまで、使わないことはありません(天体撮影なんかでは使わないかも)。
実際の撮影風景を見てみましょう。
ってなんだよコレ。
半分おふざけですが、モノを撮るときはこんな感じで背景をセッティングして、レフ板や照明やディフューザー、三脚など、様々な機材を投入して撮影に挑みます。
VPにはレフ版はありませんが、現実ではとても便利な道具です。
例えば、晴天下のポートレートの撮影などでは、モデルさんにレフ板を持ってもらって、自分の顔に太陽の光を反射してもらったり、カメラに取り付けるフラッシュしかなかったとしても、レフ板に一度光をぶつけてから被写体に光を当てることで思い通りの方向から光を当てることができます。
写真の色味はRGBの設定に加えて色温度というものも調整して撮影をします。今被写体や目の前の風景にあたっている光を色温度という数値で把握することで、思い通りの色味に写真を仕上げていきます。
光の色味を数値化した色温度は、単位をK(ケルビン)で表され、数値が高いほど青っぽく、低いほど赤っぽくなります。
例えば日中の太陽光は5500K程度、白熱電球は3500K程度、曇りの日は6500K程度みたいな感じ。
で、皆さんがお持ちのデジカメにもホワイトバランスという設定項目があると思うんですが、コレはこの色温度を使って白を正しく白にするための機能なんですね。まぁ、正しい白が正解とは限らないのですが、白を正しい白に設定してから、改めて色を調整する方がラクだったりするわけです。
色を数値として把握すると色々な遊びもできます。
スパイダーマンのライティングを芦雪のわんわんに当てて遊んでみたり。
1灯とレフ板だけでも自然光の色味を調整しつつ、商品写真みたいなものも撮影できます。
現実のカメラの撮影に興味のある方は、是非ライティングの機材を取り入れてみてはいかがでしょうか。
スマホの撮影でも、ライティングを変えるだけでグッとくる写真が撮れますよ。