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クラシックギターとの出会い【JOSE ANTONIO 20C(ARIA)】

2007年春。大学に入学した年。
当時、私はまだピカピカの大学1年生だった。新しい生活への期待を胸に、キャンパスへ続く徒歩30分の山道を一歩一歩登ったことは昨日のことのように思い出される。
大学入学当初と言ったら、有象無象数多のサークル勧誘にもみくちゃにされ、疲れ果て、適当なサークルを選ぶのが関の山。のはずが、誰も私に声をかけてくれなかった。驚きである。そこまで老け顔でも強面でもないと思うのだが。
「勧誘してくださいッ!」世界の中心で愛を叫んでた彼みたく、シャウト寸前の私に声をかけてくれたのは、クラシックギター研究会だった。実質選択肢がなかったといっても過言ではない。

そもそもクラシックギターって何?アコギと違う?

ギターでクラシック音楽を演奏するのだろうか?私もそう思った。だとしたらニッチすぎる。
クラシック以外を弾いてもいいではないか。なんと度量の狭いサークルだろう。
「楽譜が読めなくても大丈夫だから」いかにも詐欺師や怪しい宗教勧誘のような語り口の学生に説明されながら部室へ案内される。
実は高校時代に後夜祭でバンドをやろう、という安直な発案(案の定挫折した)でアコギとエレキギターに触れたことある私はクラシックギターを持たされて違和感を覚える。

弦の素材の違い

軽い。そしてネックの幅が広い。というか張ってある弦がアコギと違う。ナニコレ。ばったもん?
この時初めて知ったのだが、クラシックギターというのはアコギとは違う楽器なのだ。
アコースティックという語は、そもそも電気を使わない楽器に使用されるものなので、正確にはクラシックギターもアコースティックギターなのだが、もはやそんなまどろっこしい説明が許容されない程度にクラシックギターという楽器の知名度は低い。
ギターという楽器は基本型として6本の弦が張られた弦楽器である。7弦ギター、11弦ギターなんてものも存在するが今は置いておこう。
アコギとの最大の違いは高音弦と言われる1、2、3弦の材質が金属ではないということだ。
テニスラケットのように、ガットが一般的に使用されていた時代があるためガットギターと呼ばれることもあるらしい(現在ではクラシックギターもテニスラケットもナイロンなどの人工素材が主流だ)。
そんな理由で当然音色が違う。全くギターや音楽に興味がない人にとっては聞き比べないと違いが判らないかもしれないが、比べれば誰でもわかる程度に違う。
また、弦のテンションが低いため、アコギと比べて弦高を高くセッティングしないと弦がバズってしまう。アコギが12フレットで2.0~2.8mm程度だとすると、クラシックギターは3.0~4.0mm程度だ(個人の好みや演奏スタイルにもよるが)。

演奏スタイルの違い

一般的には1本のギターで伴奏からメロディーなどを演奏するスタイルが主流だ。ソロギターと呼ばれるジャンルである。
また、複数のギターで重奏をしたり、大人数で合奏と呼ばれる疑似的にオーケストラのようなスタイルで演奏することもある。アルトギター(弦長530mm)、バスギター(弦長700mm)、コントラバスギター(弦長750mm)などと呼ばれる大きさや音域の違うクラシックギターも存在するが、所詮は同じギターなのでなんというかどこか無理のあることは否定できない。関係者には怒られてしまうかもしれないが、割と真面目に4年間やってみた経験上、事実だと感じている。
また、アコギからギターの世界に入った人は、多くがコード(和音)を覚えてストロークで演奏するとことから入ることが多いのではなかろうか。少し進むとタブ譜を使ってギターソロをやってみたりするかもしれないが、楽譜を読むようなことは少ないかもしれない。
クラシックギターは基本的に譜面、あるいはタブ譜から入ることが多い。
基本的にはピックではなく爪を使って弦をはじくため、クラシックギタリストは爪を伸ばさなければならず、爪が弱い人は男でも無色のマニキュアを塗っていたりする。
また、演奏時は椅子に座って足台に片足をのせて演奏をする。合う合わないはあるだろうが、この姿勢で演奏すると個人的にはハイポジションを演奏しやすい。

アコギと比べた利点と欠点

音色は違えど金属弦のアコギと比較すると、弦のテンション(張力)も低いため、悲しくなるほど音量が小さい。私も経験があるが、ドラムはもちろんバイオリンやチェロなどと一緒に演奏すると音がかき消される。自分のギターの音すら聞こえない。
ただ、テンションが低いためにアコギに比べて押弦しやすく、音量も小さいために防音能力の低い家でも割と気兼ねなく弾ける、という利点はある。
基本的なチューニングはアコギと同じなため、ギターには興味があるけれど、アコギは指が痛くなる。子どもにギターを持たせたい、みたいな方には意外におすすめできるかもしれない。

JOSE ANTONIO 20C(ARIA)

サークル備品のギターを1年間借りて練習を続け、2年生に上がるタイミングで自分のクラシックギターとして購入したのがこれ。今になってみると、1年間様々なギターに触れた上で自分のギターを選択できるというのはなかなか素晴らしいシステムだったと思う。

JOSE ANTONIO 20C(ARIA)
主要スペック

ボディトップ 杉単板
バック ローズウッド単板
サイド ローズウッド単板
指板 エボニー
ナット幅 51.5mm
ネック材 マホガニー
弦長 650mm


クラシックギターとしてはかなり大きい部類のギターになる。
同じ型番でもボディトップは杉と松が出ている。
定価では20万ほどするが、今では中古のみとなっており10万以下で購入できることが多い。

使用弦

現在の使用弦はAUGUSTINE REGAL/BLUE SET。紫のパッケージのもの。
学生時代は低音弦にHANNABACHのGoldin、高音弦はAUGUSTINEやD'addarioのPro-Arteを使い分けていたが、現在は使い分けて弦を消費できるほどの演奏量では無いのでAUGUSTINE一本になっている。
クラシックギターの弦はアコースティックギターと比べると平均的に少し値段が高い(アコギが1000円弱で買えることが多いのに対し、1200円~4000円程度)。

音質

音質はボディトップが杉ということもあって柔らかいというか甘い音。
松のような固さや明るさはあまりない。悪く言えば締まりがない音なので、ゆったりした曲を弾いているぶんにはとても良いのだが、スピード感のある曲を弾いていると少し物足りなさもあったりする。

クラシックギターという楽器を弾き続けてみて

実は、小さい頃から音楽というものには淡い憧れがあった。
家の中ではQUEENやビートルズ、諸事情によりドイツ軍歌なども流れていたが、歌ものというよりはインストが好きで、音楽を聴くためだけに何度も同じ映画を観ていたりした。CDを買う、という発想も知識もなかった。
インストが好きというのがクラシックギターを気に入った理由なのだと、今ではわかる。
ただ、小学校時代の音楽の授業が大嫌いで、楽器を演奏するということにかなりのコンプレックスがあったのだ。リコーダーのテストでは泣きながら練習していたし、楽譜も読めるようにはならなかった。
それが今となってはギターを3本、フルサイズの電子ピアノとキーボード、トランペットが家にあり、音楽に触れない日はない。
大学でクラシックギターと出会っていなかったら、まだ私の家に楽器はなかっただろう。
楽器を演奏する側になるというのは人生におけるちょっとしたブレイクスルーだと思う。
小説を書いたことのある者にしかわからない小説の感じ方というのがあると思うし、写真を撮った者にしかわからない写真の見方というものがある。音楽だってきっとそうだ。
私は日本語と英語しか話せないが、覇権言語の英語をもってしても、音楽の包容力にはかなわない。

実はYAMAHAのGC-20Mという、えぞ松トップ、ハカランダ単板サイドバックのクラシックギターも持っているのだが、現在故障中で実家に眠っている。修理してこどもにあげようかな、などと思っている今日この頃。

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