本好きのみなさん、そうでない方もこんにちは。
前回は単行本と文庫本の体積と重さの差に関して調査してみたのですが、今回は文庫本の使用紙による差を調べたいと思います。
ちょっと予想以上にマニアックな内容になってしまいましたが、興味のある方はお読みください。
目次
はじめに
そもそもどうしてこんな事態になったのか。
以前、宮部みゆき(2017)『荒神』新潮社 を読んでいた時、違和感を感じたのである(なんか口調変わった?)。
本読みというのは、なんとなく出版社と本の厚さでページ数を感じ取り、読み合わるまでの時間を逆算できるのだが、この小説、なかなか読み終わらない。
右手で感じる読了分の厚みと経過時間が噛み合わない。
最後のページ数を見ると、685ページ。500ページ程度だろうという私の感覚と大きな誤差がある。
そういった訳で(だからどういったワケだよ)、計測・計量の必要性を感じたのだ。
計測方法
厚みの計測は、カバーを外した状態で、背表紙側の地(底)の厚みをノギス(新潟精機 SK 標準ポケットノギス 100mm SK-M100)を用いて計測する。
このとき、見返しや表紙は含めることとする。
重量はの計量は、カバーを外した状態で、TANITA デジタルクッキングスケール KD-321を用いて0.1g単位で計量する。
対象書籍
本棚を眺めて、ぱっと見同じくらいの厚みで異なる出版社から7冊を選出した。
ハヤカワさんは問題があるため別枠である。
ハヤカワさんは少し縦に背が高いのだ。
本棚に入れても頭一つ高くて他の出版社と並べるとガタガタするし、ブックカバーも流用できない問題児である。
でもSFは大好物。好きです。ハヤカワさん。専用ブックカバーも買いました(おっさんの唐突な愛の告白は事案だよ?)。
実測
書籍名 | 出版 | ページ数 | 厚み | 重量 |
荒神 宮部みゆき | 新潮文庫 | 685 | 19.0mm | 274.0g |
オン・ザ・ロード ジャック・ケルアック | 河出文庫 | 524 | 19.0mm | 241.4g |
最悪 奥田英朗 | 講談社文庫 | 656 | 24.6mm | 307.5g |
バッカーノ! 成田良悟 | 電撃文庫 | 476 | 22.5mm | 248.5g |
文明の奥と底 松岡正剛 | 角川ソフィア文庫 | 406 | 18.1mm | 212.0g |
教団X 中村文則 | 集英社文庫 | 601 | 22.1mm | 294.5g |
折りたたみ北京 ケン・リュウ編 | ハヤカワ文庫 | 517 | 19.2mm | 268.5g |
なるほどね(何ひとりで納得してんの)。
『荒神』『オン・ザ・ロード』『折りたたみ北京』を比較したとき、厚みはほぼ同じなのに、ページ数は150ページ前後の差がある。
これは明らかに『荒神』に使用されているの紙が薄いことが原因で、意識してページをペラペラめくってみると、他の2冊より、辞書に近い触感と音がする。
でも、小説としてのめくりやすさとしては、コレが限界値かも。これ以上薄くなると、辞書みたいに右手でページめくらないといけなくなる気がする。
そして、『オン・ザ・ロード』が33g軽いのは紙の密度の問題で、『折りたたみ北京』が『荒神』とほぼ同じ重さなのは、ハヤカワ文庫の背が高いことが原因だね。
『最悪』が『荒神』と同じ程度のページ数なのに5.6mm厚いのはページ数が増えても紙の厚さを変えていないからだと思われる。
『バッカーノ!』はページ数に対して分厚いけど、コレは電撃文庫が扱う小説に挿絵が多く含まれるから、印刷の裏抜けを防止するためなのではないかしら。
『文明の奥と底』もかなり挿絵が多い書籍だから、そのあたり考慮されてるのだろう。
『教団X』は『オン・ザ・ロード』のページ数、厚みからすると、きちんと比例してそう。
計算してみるか。
書籍名 | 厚み/1p | 重量/1p |
荒神 宮部みゆき | 0.02773mm | 0.40000g |
オン・ザ・ロード ジャック・ケルアック | 0.03625mm | 0.46068g |
最悪 奥田英朗 | 0.03750mm | 0.46875g |
バッカーノ! 成田良悟 | 0.04726mm | 0.52205g |
文明の奥と底 松岡正剛 | 0.04458mm | 0.52216g |
教団X 中村文則 | 0.03677mm | 0.49001g |
折りたたみ北京 ケン・リュウ編 | 0.03713mm | 0.51934g |
うん。やっぱり『荒神』のスコアがダントツ。
その他は挿絵が多ければ紙は厚くなり重くなる。
そうでなければ、基本的に同じくらいの厚みが使われているということがわかった。
『折りたたみ北京』が重いのは(以下略)
データ量は多くないけど、私が心底納得したからヨシとする。
それにしても、『荒神』の作り込みは絶妙。小説は基本的に左手の親指の加減でページをめくる人が多いと思うのだけど、紙が薄くなるということはこの動作に問題が起こりやすい。小口の裁断精度はもちろんだけど、薄さのセッティングは社内試験でもしてるんだろうか。きっとしてるよね。プロだもん。
しかし、この書籍の使用紙というのは、どれくらい種類があるんだろうか。
万年筆ユーザーとしては、紙の種類が気になる所。
新潮社さんに問い合わせてみた
せっかくだから新潮社さんに電話してみることにした。
はい。問い合わせました。「あの、ちょっと、書籍に使われている紙のことで、ちょっと伺いたいことがありまして…」
窓口の方は一瞬クレームか何かと思ったのか、1秒フリーズの後、担当者につないでくれました。
「書籍に使用している紙について」というヤバめな質問に対し、担当の方はとても親切に答えてくれました。
「具体的な書籍名はおわかりになりますか?」ということで、『荒神』と答えると、「宮部みゆきさんですね!確かに厚い小説ですよね」とミリ秒単位で返答が返ってくる。プロだ。
『からくりからくさ』なんかと比べると、やっぱり薄いですよね?と訊いてみると、「梨木香歩さんですよね!(ミリ秒単位の即答)確かに薄さは書籍に合わせて変更しております」とのこと。
回答の要点をまとめると、
・書籍に使用する紙の厚さはページ数に合わせて調整することが多い。
・ページ数の少ない書籍は薄い紙で作ると背表紙タイトルが入り切らなくなってしまうので、紙の厚さで調整する
・分厚い本も薄い紙を選ぶことで書籍の厚さを調整する
・背表紙や表紙が互いに干渉しないよう調整している
・具体的な使用紙の名前は答えにくいです
とのこと。まぁ、紙の商品目がわかっても個人にどうこうできる代物ではなさそうなので諦めました。
最後に
ネットで検索してもわからなかったので、自分で調べてみたのですが、やってみるもんですね。
本を読むときは、コーヒーとメモ帳、付箋をかたわらに置いていたのですが、これからはノギスとクッキングスケールも加わりそうです。
書籍に書き込みをすることも多いので、今度はインクとの相性も調べてみようかしら。
新潮社の担当者様、親切にお答えいただきありがとうございました。