「西に富士、東に筑波」と愛称される、日本百名山の中で最も標高の低い山です。
最高点は877m。男体山(871m)と女体山(877m)の二つの峰を持ちます。
多くの登山コースがありますが、いずれのコースも地形や植生の変化、野鳥観察など、様々な楽しみ方ができます。
私自身、小学生の頃から何度となく登っていますが、いまだに飽きることない魅力的な山です。
娘と登るようになってからは、写真を撮りながら、話しながら登るのが楽しみになっています。
アクセスの良さに加え、ケーブルカーで8分の男体山頂上付近はレストランや売店などが整備され、手ぶらで普段着でも気軽に登頂が可能です。
一方で、いざ自分の足で登ろうとすると、やや足場が悪く勾配のきつい山道を2時間は歩き続けなければなりません。
行きはケーブルカーで登って帰りは自分の足で下りよう、と考えて歩き始めると、あっという間に日没時間。なんてことにならないよう気を付けましょう。
今回は、ちいさなこどもと登るとどんな感じの山なのか、といったお話をしつつ、各コースの雰囲気や簡単な注意点についても説明しようと思います。
基本的には登山初心者というより、山は学校の遠足以来、という方向けの基準でのお話になるので、興味のある方はお読みください。
目次
主な登山コース
筑波山には筑波山神社方面から山頂を目指すコースが大まかに4つあります。
筑波山神社から一気に男体山山頂を目指す御幸ヶ原(みゆきがはら)コース。
筑波山神社から酒迎場を分岐し、女体山を一気に目指す白雲橋(しらくもばし)コース。
筑波山神社から酒迎場を分岐し、迎場(むかえば)コースでつつじヶ丘駅(ロープウェイ乗り場&駐車場)を経由、おたつ石コースを通って白雲橋コースに合流するコース。
他にもいろいろなコースがありますが、このあたりが一般的でしょうか。
それぞれのコースの簡単な紹介をしましょう。
ちいさいこどもと登る場合は所要時間に+30分程度見ておきましょう。
御幸ヶ原(みゆきがはら)コース
距離:約2km
標高差:610m
所要時間 登り90分/下り70分
筑波山神社から一息に男体山山頂を目指すコースです。
標高差のわりに距離が短く、勾配がきついため、他のコースに比べて険しい工程になります。
単純な勾配だけでなく、基本的に足場がよくありません。
地表に張り出した木の根や一抱えサイズの岩の上を歩き続けることになるため、ミドルカットからハイカット、ソールの硬めな登山靴がお勧めです。
また両手両足を使わないと安全に登り降りできない箇所も少なくありません。とっさに手をついてケガをすることもあるので、トレッキング用の手袋もお勧めです。両手は基本的に空けておきましょう。
登りで「想像してたのと違うぞ?」と感じ始めたら、潔く引き返しましょう。快適なケーブルカーがあります。片道580円。
ケーブルカーから山頂までは岩場になりますが、15分程度です。これだって立派な登山ですから。
娘の登山デビューコースです。最初は下山のみでした。
ケーブルカーで登って下りるつもりでしたが、もしかしたらチャレンジしたいと言われる気がしていたので、最悪15kgの娘を背負えるような装備でした。
結果としては最後まで自分のリュックを背負って下りてくれたのですが、最後の方はやや放心気味。とはいえ、かなり楽しかったようで、時折思い出したように山登りに行こう、と言ってくれるようになりました。このコースは足場が悪いのですが、下山時の足腰への衝撃は体重の軽いこどもの方が有利かもしれません。
こどもはどうしても走りたがるので、きちんとペースを整えることや、むやみにロープや枝に体重をあずけないこと、足場の選び方などを教えながらゆっくり進むのがよいでしょう。
身体が冷えていないか見てあげつつ、植物や鳥などの説明をするついでに休憩をとってあげると、飽きずに楽しんでくれるかもしれません。
やや長いコースなので、時間に余裕を見て、トイレは必ず済ませておきましょう。途中にトイレはありません。突然「トイレ。。」と言われてパニックになるのは親です。
白雲橋(しらくもばし)コース
距離:約2.8km
標高差:約610m
所要時間 登り110分/下り95分
筑波山神社から酒迎場を分岐し、女体山を一気に目指すコースです。
御幸ヶ原コースと比較すると同じ標高差に対して距離が長く、その分勾配が緩やかな印象です。
筑波山神社からルートが少しずれるため、何も知らずに登り始めてしまうことは少ないと思いますが、足場の悪さは御幸ヶ原コースと同様です。
足元だけでもきちんとした装備で挑みましょう。
また、女体山駅から利用できるロープウェイの終着駅であるつつじヶ丘駅は、筑波山神社から歩いて小一時間の距離になります。
筑波山神社に帰りたい場合は、山頂連絡路を利用して男体山側に出てからケーブルカーを利用するのがおすすめです。ついでに男体山の頂上にも行けますし、食事もできます。
ちなみに山頂連絡路はほぼ勾配のない道で850m。30分程度の距離になります。
娘とはまだチャレンジしていないコースです。良いコースなのですが、こどもの体力というより、トイレが持つか心配で踏ん切りがつかないでいます。
おたつ石コースとの合流地点より上は登りも下りも経験済みです。
娘的には、御幸ヶ原コースよりもおたつ石コースー白雲橋コースのほうが辛かったそうです。
おそらく娘は標識を見て歩いているので、白雲橋コースに合流時の女体山頂まで800mの標識にがっかりしたのだと思います。
迎場(むかえば)コース
距離:約1.6km
標高差:約190m
所要時間 登り40分/下り35分
雰囲気としては高尾山に近いです。
多少の岩場はありますが、勾配もきつくなく、比較的よく整備された足場のよい道をひたすらゆるく登りつつづけるイメージなります。
油断は禁物ですが、雨上がりでもなく、天候の良い日中であれば、正直登山用装備も必要ないかと思います。
つつじヶ丘駅ー女体山駅を結ぶロープウェイを利用する場合は、日の入り時間に注意しましょう。
日没後にライトなしで歩ける道ではありません。
こちらも娘との登山はまだチャレンジしていません。
植生の変化や、野鳥が観察できるようになれば印象が変わる気がするので、折に触れてそんな話をしています。
おたつ石コース
距離:約1.0km
標高差:約200m
所要時間 登り40分/下り35分
比較的に短く、初級者向けのコースと紹介されがちですが、注意すべきはこのコースは弁慶茶屋跡までであり、女体山山頂を目指す場合はそこから白雲橋コースに合流することです。
標識を頼りに漠然と歩いていると、白雲橋コースに合流時、女体山頂まで800mの標識を見つけて残念な気持ちになります。
距離や標高差に白雲橋コースの部分が含まれない、かつこの部分が結構きついため、所要時間を見誤らないように注意が必要です。
女体山駅までは全工程で1時間以上かかると思っておきましょう。個人的には距離や方向標識が一番わかりづらいと感じるコースです。
登り始めは比較的整備されている印象で、つつじヶ丘駅からフワッと登り始めたくなる雰囲気がありますが、途中から容赦ない岩場になります。
娘的にはお気に入りのコースのようです。
勾配がなだらかで、景色の変化が分かりやすいため、周囲をを見る余裕があることも関係しているでしょう。
また、女体山山頂の三角点付近が男体山よりも景色が良いんですよね。絶景といってもよいかもしれません。より登頂した感じがあるそうで、とても喜んでいました。
帰り道に水たまりに足を突っ込んで、べそかいてましたが。
持っておくとよいもの
登山は登山なので、きちんとした登山装備を。
と言いたいのはやまやまですが、実際そういった装備を整えるのはなかなか大変です。登山用品は高価ですしね。
ここでは、あくまで天候の安定した日中に、こどもと筑波山を登る場合に持っておくとよいものを書いておきます。
基本的な装備は登山用品売り場で店員さんに質問してみたり、専門のWebサイトをきちんとチェックしてみてください。
・水分(できれば水)1リットル
飲み水としてだけではなく、汚れてしまった手や傷口などを洗うこともできます。
こどもと登るときはこどもに500ml、私が1リットルを持って登っています。
・軽食(おにぎりやお菓子など)
山頂には展望レストランもありますが、途中でお腹が空いてしまうこともよくあります。
特にこどもを連れて歩くときは、塩タブレットやアメを持っておくとよいです。
・目薬
目にゴミが入ってしまったときなど、あると安心です。
・消毒液、絆創膏や包帯
こどもと遊ぶときは登山でなくても持っていることが多いです。
・着替えと上着(マスクの替えも)
標高の低い山とは言え、山頂は気温が下がります。汗をかいた服で風にあたると風邪をひきます。マスクも汗でびちょびちょになると気持ち悪いです。
・大きめのビニール袋
コンビニのビニール袋でもいいでしょう。汗をかいた服やゴミなどを入れるのに役に立ちます。
・レジャーシート
ちょっと腰を下ろしたいときにこどものお尻の下に敷けます。寒ければ格好悪いですが包まることもできます。
・モバイルバッテリー
山の中は電波が悪くなることがあります。また、気温が低い場合もあり、こういった環境ではスマホなどのバッテリーの減りが驚くほど早くなります。極端に冷えると強制シャットダウンすることも。スマホは外気に触れないよう、できるだけ冷やさないように心がけましょう。
・ハンカチ
まぁたしなみです。私は汗拭きタオル代わりにも使うので、こどもと自分用で多めに携行します。
・トイレットペーパー
山頂のトイレが紙切れだったら…。
・ライト
緊急時だけでなく、山頂は照明が少ないため、展望台でゆっくりご飯を食べていると、ケーブルカーが動いている時間でも暗くなってしまうことがあります。忘れずに持っていきましょう。
※ゴミはきちんと持ち帰りましょう。
もちろん、可能であれば雨具(登山用の服であれば防水で通気性がよいものも多いです)があった方が良いです。というか、下はともかく上だけは持っていきましょう。
特にこどもの登山用衣類は、少し高価なものの、耐久性もあるため普段から役に立ちます。
注意すること
念のため、ですね。
遭難という単語からどういったものをイメージするでしょう。厳冬期の雪山?3000m級の山々?
「寝たら死ぬぞ!」の世界でしょうか。
でももっと身近な遭難もたくさんあります。
例えば、「暗くなって下山できなくなる」。とてもしょぼいですが、これはもう立派な遭難です。
どれだけ体力に自信があっても、ライトもなしに夜の山道は歩けません。身動きも取れないでしょう。
想像しづらいかもしれないので写真を載せておきます。
日の入り時刻から40分程度たった白雲橋コースの道なのですが。何も見えません露光量を無理やり上げた画像です。実際はこんな道なので、スマホのライトで下山できないことが分かると思います。
こっちは何でしょう。こちらもほぼ同時刻の白雲橋コースです。この日は天気も良く、かなり明るい月が出ていたのですが、山の中の視界はこの程度です。真ん中下に小さく光っているのが空か、街明かりですね。これも露光量を無理やり上げた画像です。
ちなみに、この記事を書いている11月半ばの日の入り時刻は16:30頃です。17時過ぎにはこれくらいの暗さ。女体山山頂で日の入りを眺めてそのまま下山すると、ちょうどコースの中間あたりで何も見えなくなるイメージです。
ちょっと怖いお話になってしまいましたが、夜の山に登る楽しみ方、というのもあります。主に夜景が目当てですね。
筑波山山頂からの夜景は日本夜景遺産にも登録されています。10月から2月は土日にロープウェイの夜間運行もされているのでおすすめです。防寒着は忘れずに。
また、汗をかいた服で風にさらされると、風邪をひいたり低体温症になることもあります。
繁忙期の筑波山山頂駅の待ち時間は1時間以上のこともしばしば。その間、野ざらしです。着替えや防寒具、忘れないようにしましょう。
登山の計画をたてる
どのコースを使うか、何時に帰ってくるのかを決めて、登りましょう。
そして、家族などにそのことを伝えておきましょう。
必ず、天候と日の入り時刻、ロープウェイやケーブルカーの運行時間は確認しておきましょう。
iOS限定ですが、「Mount Tsukuba」というアプリで簡単に登山届を出すこともできます。様々な特典があるのでダウンロードしてみてはいかがでしょうか。
異変を感じたらすぐに下山する
これ、難しいのですが、例えば体調に違和感を感じたとき(ちょっと足が痛むな、など)、下山する勇気は必要です。
登山をしていて、身体に異常を感じた場合、登り続ければ改善するなんてことはまずありません。たいてい悪化します。
山は逃げないので、無理をする価値はありません。
もしも道に迷ったら
筑波山でも一部、道が分かりづらい場所はあります。
スマホのGPSや紙の地図を使って適宜現在位置を確認するクセをつけましょう。
それでも迷ってしまったときのお話なのですが、「山で道に迷う」というのはかなり怖いです。パニックになります。
慌てていると、ついペースが上がって転倒・滑落したりします。実は私もやらかしたことがあります。
同行している人がいるなら、一度座ってお話をする。水分でも食べ物でも、何か口に入れて落ち着きましょう。
冷静に無理だと判断したら、速やかに110番、あるいは119番に電話です。
最後に【こどもと山に登るということ】
いかがでしたか?ちょっと怖いお話もしてしまいましたが、むやみに脅かしたいわけでは決してありません。
危険を予防することはもちろん大切なのですが、予防してもダメだった場合のお話も同じくらい大切だと私は考えています。
自然の中で遊ぶわけですから、危険だってあるというだけのお話です。
夜の山の中というのは、本当に暗いです。これは普段経験できない、闇に近い暗さです。日中の山ではその闇が見えづらいのですが、どこかにその闇を感じるからこそ、山登りは楽しいのではないかと思っています。自然があるからこそ、闇があるわけですから。
こどもと山登りをしていると、こどもの表情にハッとするときがあります。
普段見たことのない表情をする時があるんです。何を思っているのか、訊きたくなるのですが、なんだか野暮な気がして訊けません。
何年か親をしていると、こどものことなんてよく知っている気になってしまうのですが、とんだ勘違いですよね。
そんな簡単な、でも大切なことに気付かせてくれたのが、私にとってのこどもとの山登りでした。
また、新たなコースにチャレンジしたら更新しようと思います。