趣味には沼があるらしい。
レンズ沼とか、インク沼とか。要は特定用途のアイテムを当初の目算よりもたくさん買い込んでしまう行為だ。
「沼」という単語に良い印象はない。
新明解国語辞典 第三版によれば、沼とは水が自然にたまった、どろの深い所の意らしい。ただ、ここで言う沼は陸水学的な意味ではなく、おそらく「泥沼」、なかなか脱けられない悪い環境や、どこまで腐敗しているかわからない状態にも用いられる。の意の方だろう。場合によっては底なしである。
とは言え、趣味における「沼」という単語が使用される文脈をざっと眺める限り、使っている本人たちはまんざらでもない様子なのである。
まぁ、免罪符的キャッチコピーとしてプロが考えたものなのだろうけど、結局趣味はやっている自分が幸せならイイのだ。
偉そうに語っているお前はどうなんだ、と言うと。
レンズは今の所大丈夫。インクはふとももまで浸かった。まぁそんなトコかな。
バカにしてたよね。インク沼。
カメラのレンズに関しては、フィルムカメラをやっている段階で、自分がどのあたりの焦点距離を好んでいるのかわかったことが幸いしている。
私は望遠も広角も使わない。このまま安全運転で行こう。
インクに関しては、正直に告白します。
「はい。PILOTのiroshizuku-色彩雫にまんまとやられました」
「最初はね、ブルーブラック一本だったんです。硬派で行こう。20代の頃はそう思ってました。
その後、深海、冬柿、松露の15mlを買って、プレラに入れて毎日のように使い分けてたとこまでは、まぁまだ大丈夫だったと思います。
でも、家に最近使ってない万年筆があって、どうせなら違う色いれてみたくなって、稲穂、霧雨、天色が追加されたんですよね。
はい。この時点で、正直使い回せなくなってました。たぶん私、世の平均よりはるかに筆記具を使ってると思うのですが、無理ですよね。小中高と4色ボールペンさえ使ってなかった人間だから。わかっていたはずなんです」
「なるほど。それから?」(脳内取調官)
「プレラという万年筆、細めのカリグラフィーペンなんですが、本格的なニブが使ってみたくなったんです。はい。ミュージックニブです。
それで、コレに是非、月夜を入れたくなって…。店に行って、月夜だけ買ってくるつもりが、孔雀と山葡萄がついてきたんです。
ごめんなさい。オマケではないです。お金出しました。自分で選びました。
帰り道の私は、自分にこう言い訳しました。
色鉛筆も絵の具もだいたい12色セットからじゃん、9色くらいなんてことないよね、と」
なんてことあるよ。
その日の気分で色を使い分ける?そんな情緒不安定じゃないから。
だからさ、このサイトで、紹介しようかな。
買った後になって使い方を考える。沼だね。